「基礎体力」は「コンディショニング」と同じ意味を持ち、ただ持久力(スタミナ)を指している言葉ではないんですね。
基礎体力という言葉には主に“5つの柱”が隠れており、この柱1つ1つを理解していくことで基礎体力の本質が見えてきます。
身体の要素だけではなく「免疫力」「メンタル」「栄養」「休養」なども関与しており、よりパフォーマンスを高めるためには、すべての要素を向上させることが重要になります。
この記事では、
・基礎体力(コンディショニング)とは?
・コンディショニングトレーニングの効果
などをパーソナルトレーナー歴12年の伊藤出(@izuru_style)が解説します。
今回の記事の内容
基礎体力(コンディショニング)とは
冒頭でも少し触れましたが、今回のテーマである「基礎体力」という言葉は、コンディショニング【conditioning】と同じ意味なんですね。
ですので、両者を合わせて解説していきますが、厚生労働省のHPではコンディショニングを以下のように解説されています。
運動競技において最高の能力を発揮出来るように精神面・肉体面・健康面などから状態を整えること。
この文章でもなんとなくコンディショニングについて理解できますが、本来は以下の5つの要素を指しています。
基礎体力(コンディショニング)=5つの体力要素のこと
本来、基礎体力(コンディショニング)は、
・身体的
・精神的
・防衛的
・栄養
・休養
この5つの体力要素全体のことを指しているんですね。

この言葉だけだとイメージがわきづらいと思うので、1つ1つ解説していきます。
身体的
「身体的」とは、文字通り身体に関する要素になります。
身体的コンディショニングについては後ほど詳しく解説しますが、この身体的な要素には、
・筋力
・持久力
・スピード
・調整力
・柔軟性
などが隠れており、全体の意味としては「バイオモーターアビリティ」という以下の図の全体を指しています。
これらをすべてを整える、向上させることがスポーツ選手には特に重要で、技術やスキル向上のベースとなります。
精神的
続いては精神的な要素についてですが、これは文字通り「メンタル」の要素になります。
・試合でも緊張しない
・自分の考えを持っている
・練習に前向きに取り組める
・プレッシャーに弱い or 強い
など、こういった気持ち・精神的な要素もコンディショニングの1つに含まれているんですね。
例えばメンタルが弱っている状態だと、
・どこか力が入りづらい
・体調を崩しやすい
・練習に身が入らない
など、こういったことを経験したことはありませんか?
このように、一般の方やスポーツ選手にとってのメンタル面は、パフォーマンスを大きく左右する要素になっています。
防衛的
続いての「防衛的」という要素は、免疫力のことを指しています。
・風邪を引きやすい
・すぐにお腹を壊す
・季節の変わり目に体調を崩す
・環境が変わるとすぐにお腹を下す
など、内臓や免疫に関することなんですね。
この防衛面は、「トレーニング」「休息」「食事」を適切にとれていれば自然と強化されていくため、特別何かをする必要はありません。
栄養
続いては「栄養」ですが、栄養に関して代表的なのが五大栄養素だと思います。
・炭水化物
・たんぱく質
・脂質
・ビタミン
・ミネラル
など、これらの栄養素が適切に摂れているかという食事面のことです。
栄養素の問題だけではなく、
・食事の内容
・食事の量
・食事のタイミング
・食事の頻度
なども含まれ、運動量や基礎代謝などにあわせて食事を調節するのも、基礎体力(コンディショニング)を整えるための重要な一要素です。
もし栄養不足に陥っていれば、トレーニングで強化したはずの身体面が向上せず、パフォーマンスの低下を招きます。
さらに、適切な休息をとっているにも関わらず栄養不足であれば、体内の状態は回復せず疲労がなかなか抜けない状態にもなってしまうんですね。

これらのことからも、栄養の問題もパフォーマンスを左右させてしまう要素になります。
休養
そして最後の「休養」は、
・睡眠時間は適切か
・体の疲労は回復しているか
・老廃物などを取り除けているか
・身体や筋肉を休ませているか
などの要素にあたります。
トレーニングと食事が適切であっても、休養が不足すれば体調を崩すため、人間にとっても非常に重要な要素になります。
特に真面目な方ほど休むことを疎かにしがちですが、基礎体力は5本の柱すべてが整っていることが重要ですので、休息が不足していることでもパフォーマンス低下を招いてしまいます。

このように、5つの体力要素全体のことを基礎体力(コンディショニング【conditioning】)といいます。
身体的コンディショニングとは
先ほど「身体的」な要素について解説しましたが、ここはさらに細分化でき、バイオモーターアビリティが含まれています。
こ

ここからは、このバイオモーターアビリティについて深堀していきますね。
身体的コンディショニング=バイオモーターアビリティ
先ほどもお伝えした通り、バイオモーターアビリティとは以下の体力要素全体のことを指しています。
主に、
・筋力
・持久力
・スピード
・パワー
・調整力
・敏捷性
・柔軟性
などの要素があります。
身体的コンディショニングを向上させようと思うと、これらすべての要素を整える&向上させる必要があるんですね。それぞれの意味は、以下の通りです。
筋力
筋力とは、
筋肉が発揮する力
のことで、力の大きさは筋肉の断面積(大きさ)で決まります。

筋肉が大きければ大きいほど、筋力は高いということになります。
筋力を向上させる方法としては、
・レジスタンストレーニング
・ウエイトトレーニング
・加圧トレーニング
・スロートレーニング など
さまざまな方法がありますが、もしスポーツ選手が筋力を向上させる場合は、競技特性を考慮した方法を選択する必要があります。
ちなみに、野球選手のウエイトトレーニングの方法については以下の記事で解説しているので、興味ある方は参考にしてみてください。

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持久力
持久力には、
・心肺持久力
・筋持久力
・スピード持久力
など、さまざまな持久力があります。
どのような持久力を向上させるのかによって具体的な方法は変わりますが、スタミナを向上させるためには、心肺持久力のトレーニングが必要になります。
心肺持久力を向上させようと思うと、
最大心拍数の60%以上でトレーニングを行う
ことが条件になるんですね。
この持久力トレーニングについては以下の記事で詳しく解説しているので、よかったらこちらを参考にしてみてください。
スピード
続いての「スピード」という要素は、主に2つの要素を含んでいます。その2つというのが、
・速さ:筋線維のタイプ
・スピード:動作、動き
などです。
例えば短距離走を速く走るための“スピード”で考えるとわかりやすいですが、オリンピックに出られるかどうかのレベルを決める要素は、筋線維のタイプです。
筋肉には「速筋」「遅筋」という大きく分けて2つのタイプの筋線維があり、それぞれの特徴は以下の通りです。
・速筋:大きな力が発揮でき、収縮速度が速い
・遅筋:持久性に優れており、疲れにくい
オリンピックの短距離に出る選手などの場合、9:1ぐらいの割合で「速筋」の方が多いと言われています。

ちなみに一般人の場合は、大体速筋と遅筋の割合は5:5か、6:4ぐらいです。
筋線維のタイプは遺伝的に決まっていると言われており、後天的にはこの筋線維のタイプは変わらないと言われているんですね。(厳密に言えば変わりますが…)
ですので、“速さ”を決める筋線維のタイプは変えることができない要素となります。ただ、もう一方の“スピード”に関しては、変えられる要素です。
例えば短距離を走る場合、走り方がぎこちなくて動きが硬い。そんなスプリンターは、おそらくタイムも悪く、最大のスピードを発揮できていませんよね。

こういう選手の走り方がスムーズになり、動きが美しくて滑らかな動作に変わるとスピードはどうなるでしょうか?
おそらく以前よりもタイムが速くなり、結果としてスピードは向上します。このように、“スピード”という動作・動きを指す要因については変えることが可能だということがわかります。
このように「スピード」という要素は、
・速さ:筋線維のタイプ
・スピード:動作、動き
という2つに分類でき、それぞれに視点を当ててトレーニングしていくことが重要になります。
またロシアのトレーニング理論の中には、「スピード-筋力」という要素があり、これもここでお伝えするスピードの1つになるんですね。
ここについては、以下の記事の中でトレーニング方法を解説しているので、よかったら参考にしてみてください。
パワー
パワーという体力要素は、
最大筋力の1/3×最大スピード
となるため、上記でお伝えした「筋力」と「スピード」の両方、またはどちらかを向上させるとパワーも向上します。
ですので、ここでの解説は割愛しますね。
調整力
調整力という体力要素は、
身体を自由自在に動かせる能力を指し、スキル・技術に直結する要素
になります。

この能力が最も高い選手の1人が「元シアトルマリナーズのイチローさん」ですね。
調整力の向上には、
・コーディネーション
・コオーディネーション
この2つの掛け合わせが重要であり、それぞれを理解した上でトレーニングを行う必要があります。
コーディネーショントレーニングなどについては以下の記事で詳しく解説しているので、興味がある方はこちらもご覧ください。
敏捷性
敏捷性とは、
正確性×速さで求められる体力要素であり、各スポーツで必要になる能力
です。
具体的な例でいえば、
・ピッチャーがバント処理をして1塁へ正確に送球する
・サッカー選手が、フェイントで相手を抜き去りゴールを決める
こういった要素になります。
特にこの「敏捷性」は「俊敏性」と混同しやすくなっており、この辺りは以下の記事で詳しく解説しています。

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柔軟性
柔軟性については主に2つあり、
・静的柔軟性:静止状態での柔らかさ
・動的柔軟性:動き(動作)の中での柔らかさ
などがあります。
スポーツ選手にとって重要なのは動きの中での柔らかさ(動的柔軟性)ですが、この2つを高めることでケガの予防ができたり、パフォーマンスの向上につながります。
このように、ここまで解説した主に7つの体力要素を整える、またはすべて向上させることで身体的コンディショニングが向上するわけです。

では、こういった身体的な要素や基礎体力を向上させることは、どのような意味があるのでしょうか?
基礎体力(コンディショニング)トレーニングの効果や本当の意味
基礎体力(コンディショニング)を向上させることは、最終的に試合に勝てる確率が上がったり、パフォーマンスの向上につながるんですね。
基礎体力の向上=勝つための土台になる
まずは、こちらのピラミッドをご覧ください。
一番下には「基礎体力」があり、その上に「スキル」「戦術」などが乗っています。
基礎体力を向上させようと思うと、上記でお伝えした全ての要素を向上させる必要があるんですね。
土台である基礎体力が大きくなれば、練習を適切に行うと「スキル」「技術」も向上しやすくなり、戦術などが組み合わさって試合に勝つ確率が高まります。
トレーニングと練習を並行する重要性
ただスポーツ現場では今でも練習ばかりして、トレーニングに時間を割かないところがあるのが現状です。
コンディショニングトレーニングをしないと、土台が小さいままですよね。そうすると、いくら練習をしても上に積み重なっていかない。
こういう場合は、
練習だけ続けても、どこかで必ず伸び悩むタイミングがきてしまう
わけです。なぜなら土台が小さいからです。当然、戦術も小さく低くなるため、試合に勝てる確率も低くなります。
だからこそ、トレーニングと練習を並行することが重要であり、ここにコンディショニングトレーニングの大きな意味があるんですね。
必ず全ての体力要素をトレーニングすること
スポーツ現場でもトレーニングの重要性が理解されはじめ、筋力トレーニングを中心に行っている選手やチームも多くあります。
ただ、ここで必ずおさえておくべきことは、
コンディショニングは全ての体力要素を整え、その中で全体を向上させることが重要
ということです。
イメージ的には、こんな感じですね。
筋力レベルだけ低い状態ですが、この場合、一番低い筋力レベルにすべてが引っ張られてしまいます。
コンディショニング(基礎体力)を向上させる上で大切になることは、全ての要素が整っていることです。
もし個人やチームで、何か1つの体力要素のレベルが低ければ、その要素を向上させることがメインのトレーニングとなります。
このように、筋力トレーニングが行われるようになった現代は素晴らしい一方で、この理解をして他の要素のトレーニングもしていく必要があるわけです。
先ほどもお伝えした通り、
・コンディショニングレベルを整えること
・その中で、1つ1つの要素をさらにバランスよく向上させること
この2つができることでより土台が大きくなり、練習した分だけパフォーマンスが向上していきます。

これがコンディショニングトレーニングの重要性であり、効果というわけです。
基礎体力(コンディショニング)とは?本質となる5つの柱のまとめ
今回は、基礎体力(コンディショニング)とは?本質となる5つの柱について解説しました。
・基礎体力=身体的・精神的・防衛的・栄養・休養のこと
・身体的の中には、バイオモーターアビリティが含まれる
・これらすべてを整え、向上させることが重要
・基礎体力は、スキルや戦術の土台になっている
・基礎体力レベルが低いまま練習だけをすると、いつか伸び悩む
・必ずトレーニングと練習を並行する必要がある
こういった内容をお伝えしました。
今回お伝えしたことは実際に現場でご指導したり、必ず理解してもらう内容なんですね。なぜなら、パフォーマンスアップに必須だからです。
ライバルに勝つためにも自分の目標を実現するためにも、今回の内容は非常に重要になるので、特にスポーツ選手を指導する方には理解していただきたいですね。
今回の内容で、少しでもコンディショニング意味や効果が伝わればうれしく思います。今回は以上です。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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